愛鳥週間 after 〜〜白い馬と鳥的愛鳥週間〜〜

 10分後、まだ渋滞する時間でもなく、探偵と一緒の割に珍しく事件に遭遇することもなかった(と思ってしまう辺りに日頃が知れる)おかげでスムーズに到着した米花駅前スーパーにて、主婦に混じって買出しする高校生男子二名の姿があった。双方共に人目を引く容姿の持ち主であり、かつ片方はここでそっくりな別の有名人と共に買い物をする姿を見られることが多い近所のアイドルである。当然、この行動は以後一週間に渡って、おばちゃんたちの井戸端会議の話題となることになった。
 そんなことには気づかずに、白馬は予定通り荷物持ちをしながら、籠に入れられていくものの内容に疑問を抱いた。
「…黒羽君」
「なんだ?」
 呼ばれた相手は、本日の特売らしい卵のパックを前に吟味中。
「僕はあまり家事に詳しいとはいえませんが……この大量の鶏肉は一体何に使うんです?」
「料理」
「………それはそうでしょうけれど」
 再度の問いが投げかけられる前に、ニッと笑って籠に卵のパックを三つ突っ込む。
「…黒羽君」
「おめーには関係ねーから黙っとけって」
 知らねぇ方が言い逃れ易いだろーしな。
「……つまりこれは、工藤君に対する嫌がらせなんですね」
 大正解〜っとどこからか出現した紙吹雪を舞わせる快斗に、白馬はこの後の展開と自分がそれに巻き込まれるだろうことを予測して大きく溜息をついた。

 そんなこんなで荷物を抱えて辿り着いた工藤邸。相変わらずお化け屋敷な佇まいは、それでも本来の住人が戻り、何かとまめな快斗も出入りするようになって、以前よりはかなり改善されている。ついでにセキュリティのレベルは主と半同居人及び隣家の二人という天才陣によって大幅にアップされている。いや、システムの改良ついでに外装にも手を入れたというのが正確か。
 いまや怪盗KIDにとっても本気で当たらねば突破できないような恐怖のセキュリティを正式な認証でパスし、管理権限で白馬も通れるように認識させる。いつもはしないその行動に白馬は首をかしげた。
「僕はここで失礼しますけど?」
「え、わざわざここまで荷物持ってもらったんだし、お茶くらい飲んでけよ」
「……工藤君に悪いですよ」
 大切な相手と二人で過ごせる時間には大いに誘惑されるが、その恋人の家で、しかも留守中にというのは流石に問題ありだろう。苦笑いする白馬に、快斗は悪戯っぽく笑った。
「いつもなら俺もこんなこと言わねぇけど、今日なら大丈夫だと思うんだよな、白馬がいても」
「それは僕がお邪魔してる間には帰ってこないということですか?」
「いや、帰ってこないだけなら逆に危ねーだろ」
「………確かに、そうですね」
 犯罪者一歩手前か、あるいは必要によっては一歩どころでなく一線を超えて完璧な完全犯罪を実行しそうな相手の行動パターンを理解してはいるらしい。その上でのお誘いなら、と白馬も悪戯心を起こした。彼が自分の予想と違う行動を取るというのなら、探偵としても好奇心をくすぐられるので、この際多少の火の粉は覚悟することにする。
 どの道犬も食わない喧嘩のおこぼれは、回りまわって自分の所に来るのだろうし。
「では、暫くお邪魔させていただきますね」
「おう。って俺んちじゃねーけどな」
 二人は顔を見合わせて笑うと、主不在の家へ堂々と上がりこんだ。

「…よく時間がありましたね」
 リビングへ通され、薫り高いダージリンと共に出されたのは、ドライフルーツたっぷりのお手製らしいブラウニーズ。少なくとも昨夜の犯行時刻である11時までは拘束されていただろうに、一体いつの間に作ったのだろう。
「今朝新一が出かけてから作っておいたんだ。これなら見つかっても食えねぇだろうし」
 ケケッと笑う悪戯小僧に、疲れて寝過ごしたのではなく、お菓子作りで遅刻したのかと呆れる。
「そこまでして食べたかったんですか、これを」
 確かに美味しいですけど、疲れているときに出席を削ってまで作らなくてもよかったのでは?
「ばーか、自分が食うだけならんな面倒なことしね―よ」
「は?」
 つまり、最初から誰かに食べさせるために作ったということで。そして工藤君はこれを食べないということは…
「………最初から、僕を誘ってくださる気でした?」
「さーてね。謎を解くのは探偵の仕事だろ」
 ま、愛鳥週間も今日で終わりだし、鳥も無事巣に戻りましたっつーことで。甘いもんは疲れが取れるしな。
 気障なウィンクは昼の姿でも様になっている。謎といいつつ素直じゃない答えをくれた相手に、素直に感謝して。
「答え合わせはしないでおきますよ。折角嬉しがらせて下さった事ですし」
 自分には手が届かなくなった鳥が、気まぐれにでも舞い降りてくれて。それも飛び切り幸せそうとなれば、真実の追究なんて野暮なことはしたくない。
 この孤独で淋しがりやな鳥を本当に幸せに出来るのは、自分でないことは知っていることだし。
「探偵らしくねーな、それは」
「今日は休業中なんですよ」
 探偵にだって休みは必要なんです。そう主張して。
 仕事の終った探偵と怪盗は、暫しの休息を楽しむのだった。


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