愛鳥週間 after 〜〜白い馬と鳥的愛鳥週間〜〜

 愛鳥週間も最後の一日。実に十日に渡って続いた連夜のKIDのショーも終了し、白馬は久しぶりにフルタイムで授業を受けていた。GWの中日に出席して以来だから、ほぼ二週間ぶりのことである。漸く学校に来る時間が取れたとはいえ、連日連夜、白い鳥と密猟者を追っていた疲れは抜けていない。ついらしくもなく教科書の影に突っ伏してしまいそうになる体を意地で引き起こす。

(僕がこの状態だというのに、黒羽君はあれですからね)
 横目で見た相手は一見熟睡中。しかし腕の影に見える横顔をなるべく気配を殺して見詰めると、煩げに片目を開けてまた閉じる。やはり完全に眠っているわけではないようだ。
 彼の神経に触らないよう、意識を壇上の教師に戻しながらそっと息を吐く。
(追うものと追われるもの、どちらが疲れるんでしょうね)
 自分は事件協力ということで、最初から学校を休んで捜査に専念していた。往復は運転手付の車だし、食事も何も言わなくとも差し入れられる。どうしても疲れた場合には、現場で仮眠をとっていても早々危険なことはない。
 しかしクラスメートに聞いたところ、彼は遅刻と早退を繰り返しつつも、学校には真面目に来ていたようである。怪盗業にも準備が必要だろうし、人のいるところで気を抜くことの出来ない彼は、一体いつ休息を取っていたのだろうか。
(…取っていなかったからこそ、あの工藤君が、僕にまで協力を求めてきたのでしょうね)

 東の名探偵と呼ばれる存在。自分が日本でKIDを追い出してじきに姿を消した彼は、復活して直にKIDの現場に姿を現した。そして見てしまった、二人の邂逅。その瞬間まで怜悧に相手を追い詰めていた蒼い慧眼は柔らかく和み、警備を掻い潜り翻弄し続けてきた冷涼なKIDの気配も、その瞳に見詰められた途端、張り詰めたうちにも甘さを含んだものに変わって。
 誰にも手が届かない、そう思いながら追いかけていた鳥が、いつの間にか他の誰かに捕まっていたことに気づかされた。

 何故、彼を追わずにいられなかったのか、想いを自覚した途端の失恋に苦しんで、悩んで、それでも諦めきれずに現場で会った彼に言葉をぶつけて。
 黒羽君を泣かせたら許さない、と言った僕に彼は笑っていた。
『俺はあいつを籠に入れる気はねぇよ。今までもこれからも、泣かせてきたし泣かされるだろーな。…けどな、そう出来るっつーことが幸せなんだよ』
 俺にもあいつにも、と笑みを照れくさそうなものに変えて――だから手を出したら許さねぇとしっかり釘は刺してくれたが。
 その、彼が珍しく本心を見せたのだろう笑みと、あれ以来、僕の所にやってきては盛大に工藤君について愚痴という名の惚気を撒いていくようになった想い人に割り込む隙は見出せず、僕はあい変わらず探偵としてKIDを追い続ける日々を過ごしている。
 これも一つの幸せなどと思ってしまう辺り、失恋の痛手が癒えたのか、それとも捕まえるつもりだった白い鳥に捕まりっぱなしなのか、僕にも謎である。

 白馬が遠くはない記憶を辿っているうちに、居眠りすることなく無事授業は終わり、寝ていたのかいなかったのか不明な快斗も起きだして帰り支度をしている。今日こそはゆっくり休もうと疲れた体で立ち上がった白馬に、同じく休むのだろうと思っていた相手が声を掛けた。
「白馬ー、この後暇あるか?」
「時間は空いてますけど…黒羽君、あまり顔色がよろしくないですよ」
 言外に真っ直ぐ帰って休め、と言っているのを無視して言い募る快斗。
「だから、買い物付き合ってくれねー? 重くなりそうなんだよ」
「……僕は荷物持ちですか」
 いいですけど、と苦笑する相手を連れて、快斗は学校を後にした。

「それで、どこまで行くんです?」
「んーと、米花の駅前辺りで買い物して、新一のとこ。また警察みたいだから、戻ってないだろうけど」
 昼休みに届いたメールにはまた事件で出かける旨が書かれていた。遅くはならないとはあったが、これは当てにならないだろう。一度推理にのめりこんでしまえば時間など意識に上らないことは、今までの経験でよーーーく判っている。
「では、駅前まで送らせますよ」
「あ、今日車だったのか。わりぃ」
 転校当初は常にベンツでお迎えだった白馬も、最近では徒歩で友人と話しながら帰るという付き合いを学習しているため、遠出の予定がなければ送迎は来なくなっている。なので今日も歩きだと思っていたのだが。
「いえ、僕も歩いて帰るつもりだったんですけどね」
 どうやら家人が疲れ気味なのを気遣ったらしい。やっぱ誘ったのは悪かったかな、と思う快斗に白馬は苦笑した。
「理論的には君の方が疲れている筈なのですが」
「あー、なーんのことでしょうね」
 既にバレバレでもとぼけて見せるのはお約束の言葉遊びなので、相手も一向に気にする様子はない。
「まぁ、君が元気だというなら、僕も探偵としてのプライドがあるということにしておいてください」
 まだ今日一杯までは愛鳥週間ですし。
「…そういうことにしておくか」
 にしても、おめーまで愛鳥週間かよ。
 後部座席のドアを開け、先に乗るようさり気無くエスコートする相手に笑って、怪盗のプライドにかけて表には出していないがやっぱり疲れてはいる快斗は、ありがたく白馬の好意に甘えることにした。


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