Bird Week  〜白い鳥の災難記録〜

Part1 観察編

「さーて、今日もお仕事しますか」
 新緑輝く五月ともなると、地上よりも冷たい上空の風も柔らかく溶けてKIDの白い翼を包み込む。漸くの飛行日和な季節の到来に、怪盗はご機嫌で連日の予告を出し続けている。
(これから梅雨入りまでがかき入れ時だからな〜。先週まではアレのせいで飛ぶに飛べなかったし)
 黄金週間に合わせて各地で宝石展などが行われていたにも関わらず、連休前に一度姿を見せたきり、まるで現れなかった怪盗に、マスコミは再び休業説や死亡説を持ち出し、GW中、全国KID追っかけツアーをしようと目論んでいた金余りの怪盗ファン(例:園子)と密かにKIDの予告効果による売上アップを願っていた主催者は涙を流し、定時に帰ってくる父に青子は一人喜んでいた。

   何故、この好条件下でもKIDが現れなかったか。
   GW最後の子供の日は、とある理由により、彼にとっては悪夢であったためである。
   ……ファンの幻想を守るためにも永久に闇に葬るべき謎であろう。

 そんなわけで白い鳥は、GWラストからこれで五日連日で夜空を翔け回っていた。勿論ここまでの四日間、連戦連勝。空と風を味方につけた怪盗は非常に確保しづらい。直接手の届かない空に飛ばれ、翼をフェイクに使われて囲みを抜かれと、警備は破られ放題。中森警部と白馬探偵の血管は切れる一方である。
 今日もこの調子でいくぜ、と本日の姫君エスコートに向かう道筋、帰り道の中継地点(予定)になにやら光を反射するものが映る。不本意ながら頻繁に向けられる銃口のものとは異なるそれは、しかし確実にKIDの姿を捉えつづけていた。
(なんかやーな予感がするぜ)
 無視してショーを続行し、どうせ誰も判読できていないだろう中継地点を変えるか、それともイベント予定を守るため、予感の源を排除するか。僅かに迷った後、KIDが選んだのは後者。
「麗しの姫君、暫しの遅参をお許しくださいね」
 KIDは誰も見ていないはずの空中で博物館に向けて一礼すると、その翼の向きを転じた。


 中継地点に近づくと光の正体はすぐに判った。白い翼が威嚇するように上空を旋回しても、一向に気にすることなくそれを向け続ける相手に、怪盗は呆れて翼を畳んで屋上に舞い降りた。
「よぉボウズ…また何やってんだ、こんな所で」
 ニッと笑って、こんな所にいるはずのないお子様は、それ――双眼鏡――を下ろした。
「バードウォッチング!」
「………学校の宿題か?」
「違うよ、自主研究。今日から愛鳥週間だからね」
 不本意ながら本性を知ってる身としては寒気がするだけのよい子のお返事に、観察され中の白い鳥はガックリ肩を落とした。
「言っとくがな、愛鳥週間ってのは鳥を捕まえる日じゃねーぞ」
 返ってくるのは満面の笑顔。
「勿論♪ 今日は見に来ただけだよ。それより、早く行かないと時間に遅れるんじゃない?」
 特等席から見物してるから行ってこい、と手を振られて、この相手が本当にそれだけで済ませるのかと疑念を抱きつつも怪盗は飛び去った。

 一旦仕事モードに切り替わってしまえば、何かが怪しい背後の視線もさして気にならない。余分な時間を使った分、手っ取り早く…とそのまま展示場へ突入したKIDは、だから不穏な台詞を聞くことはなかった。
「捕まえねぇけど……愛鳥家としては、野鳥が落ちてたら保護すべきだよな」
 いそいそとコナンが用意しだしたのは、先週まで怪盗の天敵となっていた、布製のとある物体。
「あん時怪我したんじゃね―かと思って大人しく待っててやったっつーのに、人の誕生日にも姿を見せなかった直後にこんなに派手に動くとはな。…んなに元気ならきっちりと遊ばせて貰うぜ」
 孤高のようでいて人に懐きやすい白い鳥に、待ち受ける傍若無人な俺様と最大の強敵に気づけるだけの野生の勘はあるのか?
 その答えは、30分後、周囲に響き渡った絶叫が物語っていた。
(合掌)

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